ごきげんよう!秋から冬に変わる速度、尋常じゃないですね!?
 ライゼの先日書いた日記に抱腹絶倒、感涙むせび泣いた旅人さまも多くいらっしゃいました。
 ありがたい限りでございます。と同時に、皆さままだまだ不老不死の真実について不安を感ぜられてもいるようでして……。
 ライゼのライは来世のライ!記憶というものがどれほど強く淡く切なくノスタルジックにたおやかに残るのかというのを、いっちょ見せつけてやろうかと思います。刮目!刮目ですよ!旅人さま! 



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 西暦5030年――。地球は争いの歴史を経て、1つの国家を形成していた。単一国家「地球」に各自治区がある時代、人は政治を行わない時代……。政治を行うのは知識と技術を結集させ、構築されたAI。
 各国の文化は尊重され、和をもって尊ぶ国も元号制を維持。とはいえ、漢字二文字をしこたま繰り返した結果、だいぶネタ切れ感は否めず、リバイバル・キラキラネーム・ブームの世論に寄せた決定の結果、5030年は『数独(読み仮名:ナンバーガール)521年』となっていた。
 かつてオタクが闊歩した電子の街は、「地球第八地区・オタクAI自治地域」と呼ばれていた。政治の担当官は、AI・宮本武蔵ちゃん。自由気ままな政治に、住民もにっこり。日々たおやかにすくすくと過ごしていた。
 
 オタクAI自治地域の主な収入は観光である。平均寿命が1008歳となった5030年では、世界一周旅行の経験は当たり前。それどころか、やれこの地域の畳の目は平均いくつだの、あの薬売りの幸福度は世界平均でいくつかを計測するだの、だいぶミクロな楽しみ方さえ生まれてきていた。1008年を経て、人々は皆、旅人になっていたのだった。
 
 AI観光ガイドの方が、オタクAI自治地域の上空に浮かぶ要塞に足を踏み入れていた。観光客がその日は2千人程度。全員が骨に埋め込んだイヤホンの電源を入れる。うんぬんかんぬん回の世界大戦よりも遥かに昔の電子の街並みを保全し、その地形を保護したもの――。かつては疎開地とされたこともあった、平和を維持する旅の拠点、その空中要塞は『シャッツキステ』と呼ばれていた。
 
「皆様が足を踏み入れております、この空中要塞がシャッツキステと呼ばれています。世界は人口2兆人総旅人時代となったわけですが、旅人が当時集う時代だったころ、拠点となった図書館が、最終的に空中要塞となったと言い伝えられています」

 古文書も消失した中で、歴史研究家達が議論を重ねた、英知の結晶とも言える仮説をAIがすらすらと喋る。AIのIQは5030年現在、2万と言われる。研究家たちのIQはそれを活用できる、概ね15万ほどのIQを備えている。IQ15万ほどになると、指を振って天気を変えたりできるらしい。
 
 かつての電子の街の遺跡――これはあくまで空中要塞だが――に、各自治区から訪れた旅人たちが感銘し、涙を流す。目に生まれつき備え付けられているカメラでパシャパシャと写真を撮影する。AIは表情を変えず、説明を続ける。
 
「空中要塞の艦長はエリスと呼ばれていました。この要塞の世界観、デザイン、枠組み、防犯対策、ヒヨコのオスメスの見分け方など、すべてを構築したそうです。一説によると、IQが当時で1万に達していたとか」

 当時のIQ1万はどれぐらいすごいんだ!?と全員が計算を始める。昔のパンの値段を聞いたときの令和生まれのようなリアクションだ。
 
「もちろん、人智を超えていますねー。さて、このお部屋を見てください。こちらがメカニックルームと言われています」

 令和の知識では台所にしか見えないそこは、数独(ナンバーガール)の時代ではメカニックルームと呼ばれていた。「ここで防衛設備を……」「いや、きっと家電の開発をしていたんだ」などと憶測が飛び交う。
 
「メカニックルームでは、IQは1万に満たなかったものの、人の枠を超えた改造をした人々が活躍していたそうです。ポケモン博士・アオイは敵をちぎっては投げるための研究を。そこで生まれたメカツバキ0422号は、このメカニックルームを拠点に鉄道とお菓子の実験をしていたそうです」

 ふと、1人の旅人が手を挙げて質問を投げかける。
 
「メカツバキ0422号に、ロケットパンチは……?」
「ついていました」

 深い肯定に、歓声と拍手が巻き起こった。移動すると、そこには大きなテーブルがあった。
 
「ここは長年、食事をしていたと考えられていましたが、近年の研究で何か発表をするステージだったということがわかっています」

 旅人たちの心が躍った(ステージだけに)。何が一体繰り広げられていたのか。2つの木製の古びた机にしか見えないが、この上でステージが!
 
「名簿にはこう記されていますね。『ろくろぶん回しギター侍・ムギ』『スーパーハイパーボーカロイド(実写):シズク』『姫ギャル~宇宙ペガサスMIX盛り~ことミツキ』」

 トンチキな名前にざわめきが広がる。AIはあえてそのざわめきを放置した。1分ほど経つと、やはり数独時代の寵児達は思考がまとまるものだった。正解を尋ねるべく、AIの方角を眺める。
 
「基本的には楽器や歌、そしてペガサス……という、文献では当時の流浪の民の一形態らしいのですが、その生き様を見せるショーを披露していたそうです。それを取り巻いてお茶会も行われていたとか」

 お茶会と聞くと、聴衆からはため息が漏れた。5030年にはお茶会がない。だから、今いちピンと来なくて、そのピンと来なさに首をかしげるのだった。
 
「当時の食事のメインとなっていたのは、人類初の人造ホームベーカリー:コードネーム“モモ”の焼いたパンですね。当時の記録がこちらに残っています」

 AIが1冊の本を取り出す。そこには『著者:ヤナギ ~宇宙を股にかける食レポ番長~』と書かれていた。
 
「ヤナギの食レポは貴重な文献ですね。ただし、やんちゃすることも多かったらしく、サイバー警察英国署組織犯罪対策部焼き菓子担当のオトハによく追い掛け回されていたらしいです。まあ、余談ですね」

 あえて余談を付け加える、というAIジョークによって笑いが巻き起こる。会場の空気があったまったところで、AIは全員を引き連れ、机――ステージ――の周りに置かれている椅子を指さす。
 
「ここに旅人が着席し、お茶会を繰り広げていました。お茶会担当としては、お茶会部長補佐代理がノバラ、お茶会部長補佐代理心得がシオン、お茶会部長補佐代理心得改め班長がリツだそうです。それらの下部組織なのか、ライゼというものが『鼓と扇子でにぎやかし(あるある探検隊)』を担当していたそうです」

 説明を聞くと、1名の旅人が不安そうに手を挙げた。
 
「名称が似すぎていて覚えきれないのですが……」
「後でデータでお送りします。ご安心ください」

 胸を撫でおろす旅人たちを、最後の観光地に案内する。入り口のドア――に令和の人間には見えるもの――のそばに置いてある机で、これは何なのかといった予想合戦が繰り広げられた。そして、それは1つの予想に着地した。
 
「ここが操舵室ですね?」

 質問に、AIは深く頷く。
 
「魔法が動力源とされていたと言われています。ロストテクノロジーになってしまいましたが……“マジカル航海士”ことココが主に操縦を。長期航行もあったとされており、その際には『戦場のピアニスト:ルナ』が主に癒しの演奏を行っていました」

 当時の船員のストレス感がVRのように、旅人たちの心によぎった。あるものは涙を流し、あるものは大爆笑しながらヘッドスピンを繰り広げた。
 
「とはいえ、当時の行き先はラブリーゴーストライターの使い手であるツグミが主に指示していたので、迷うことはなかったそうです」
「そのラブリーゴーストライターというのは……?」
「念能力ですね」

 念能力という回答に満足したのか、全員がストレスから解放された顔をした。そして、砲台のようなものが置かれていることに気付いた。もっとも、令和の人間にはそれはクラッカーにしか見えないのだが。
 
「これは武器でしょうか?」
「鉄砲玉として、カナタという人間が射出されていたそうです。とはいえ、不老不死だったそうですよ」

 寿命が1000年を超えた人々にとって、「不老不死」という単語は爆笑のツボであった。そうして、空中要塞シャッツキステの観光ツアーは和やかな雰囲気で幕を閉じた。案内を行ったAIには惜しみない拍手が贈られる。
 
 大勢の旅人が帰宅した後、AIはマザーコンピューターとの接続を切り、初めて「個」となった。このAIはこの地に住まうものであり、この地の記憶を精密に記憶している。
 どこにも繋がっていない電話を手に取り、話しかける。
 
「そうなんですよ。大幅に間違っているんです。でもね、記憶はやがて妄想に変わるものなので」

 おかしそうに笑いながら、椅子を撫でる。机を撫でる。紅茶を注ぐような真似をする。少しステップを踏み、レジの前に立ち、もう失われた文化である手書きの文字を頭に浮かべたりする。
  
「でも妄想にしては、割とちゃんと残った方だと思うんですよねえ」

 明日も明後日も、シャッツキステには旅人がやってくるだろう。万物は知らぬ間に流転し、何かが変わっていく。それでも変わらず、桜の花が空中要塞の上と、かつて秋葉原と呼ばれていた土地で、美しく舞うのだった。

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raize


 皆さまもこれでご安心できましたかね?
 何?すごく寂しいですって……?まだそんなこと言って!!一番悲しんでるのは何の知らせもなく鉄砲玉にされたカナタさんですよ!?秋組のイラストを描いたお礼に鉄砲玉にされるなんて、そんな治安を誰が予想したっていうんですかね……。
 エンディングまで、泣くんじゃない。ほなね~!!