shizuku


「お仕事をしていないと落ち着かないんです」?!

くるくる働く 勤労メイド

しっとり降る雨の一雫のような佇まい。

でも嵐のような忙しさにも負けない体力派な一面も。

くるくる動き回ってひたむきにお仕事に取り組みます!


この言葉とともに20172月 私は春色のブローチを胸に宿しました。

みなさまごきげんよう。シズクです。


こちらの文は私がパーラーメイドとしてお給仕に入る前日に

エリスさんが「シズクはとっても働き者だわ!」とプロフィールに添えられた文章です。


どんな世界か未知なまま好奇心で飛び込んだとある物語の1ページ。

私は、私自身と約束しました。

名に恥じない立派なメイドになろうと。




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のこりの日誌も3ページとなりました。

雪待月に入り毎日綴られている日誌はメイドの視点から館内の様子や、メイドについて語られたものが多く、私から見ても微笑ましく、一滴の寂しさもありページを進める毎に1日進んでしまうのは惜しいほど。

時の流れは緩やかに、残酷過ぎ去っていきます。


私がパーラーメイドになってから4年の月日が経とうとしています。

予期せぬ形でこの場を去るなんて4年前の私には想像もつかなかったことでしょう。

同期が退職した春に「私も花束に囲まれて旅立ちたいな」と何年かあとの未来予想図にどきどきしていましたから。

ここ数日の旅人様からつげられる「最後の日のご挨拶」は私が退職の日を迎えるまで聞くことがないはずの言葉なのに「何故」と思う気持ちがまだ拭えません。

旅人様もきっとそう思っているはずですから、どうか一緒に物語に栞をかけましょう。

続きの物語はどうか夢の中で描かれることを願って。



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さて、残りわずかの日誌のページに何を書こうと今ペンを握っていますが、

私はメイドとして図書館でお給仕し得た感情の記録を残すべきだと考え、

今月は【メイドの存在意義】についてお話しさせていただきます。



2006年屋根裏の開館から14年、平成の時を越えて時代は令和。


なぜここまでメイドは受け入れ続けられ、流行や世論に動かされなかったか。


それは、きっとメイドにしか表現できない愛の信頼関係が存在しているから。



私が旅人さまとお話ししたこと、お菓子を作ったこと、お紅茶を注いだこと、

私はこれを業務と呼ばれる言葉で片付けることは致しません。

メイドの存在意義をを主従関係と言葉つけるならそれでもかまいませんが、主従関係の根底には「信頼」があることをみなさま忘れないでください。


メイドが贈る愛は恋心を含むものではありませんが、この関係性は家族も友人も恋人も上司でもない、メイドだけが築くことができる特別なものです。


メイドとあなた(旅人さま、ご主人様)の関係概念は揺らぎません。

ですので、メイドは家族にも友人にも上司にもなれません。

しかし家族にも恋人にも秘密にしている趣味のお話をメイドにはこっそりと語りかけて下さるのです。

言葉にするには少し難しい関係性こそが一番心地のいい距離感であり、我々が存在する意義ではないでしょうか。


私はこの場所で何百人もの方とお話をしました。

そのうち「シズクさん」と名前を覚えてくださる方が何十人もいてくださり、私も旅人様の好きなものを覚えました。

旅人様が好きなハーブティーのブレンドも、スコーンのジャムも、スープに追加するトーストの枚数も、ゲームやアニメ、様々なことをお話をして知り、次もお話の続きができたらいいなとお見送りの時には「またのご来館をお待ちしております。行ってらっしゃいませ」とお声かけしました。


シャッツキステのスープやお菓子はすべて1から作り上げます。

朝1番のキッチンで行うことといえば生クリームを泡立てて、スープ用のバケットを切り、野菜は皮を剥くところから。

まだ春組だったころ「もっと効率化を目指せばいろんなメニューをお出しできるのに」と考えておりましたがこれはきっと私たちにしか作れないものなんだろうと一生懸命1センチのサイズに揃えて玉ねぎや人参を切りました。

シャッツキステのメニューは時にたくさんの二、三次元作品ゆかりのレシピに変わりましたが、フレンズと一緒に丸めたハンバーグも、色とりどりのハーブティーも、ふんわり三角形のパウンドケーキもこの場所で学んできたことが全ての基礎となり、実を結んでいきました。


花壇の植え替えは季節毎に、レースのエプロンが汚れぬように縫われた特別な麻のエプロンは大胆に手仕事が捗ります。

普段は写真を撮らないと話す旅人さまが蕾の姿にカメラを向け「花の種類はわかりませんが、来週来るときには咲いてるといいな」と声をかけられた時はいつもより少し丁寧に手入れをして、翌週咲いた花について、言葉の通り会話に花を咲かせました。


レース編みはメイドの楽しい手仕事のひとつ、ついつい手が止まりながら旅人様とお話が弾みます。

1日で1枚編むメイドも、1ヶ月で1枚編むメイドも、1年で1枚編むメイドもその日の楽しい思い出と一緒に編み込みます。

編まれたコースターの上には時に色とりどりのハーブティーが輝きます。ハーブの効能も自然とお給仕のなかで覚えていくことが増えました。


我々の給仕は全ては旅人さまがシャッツキステで穏やかに過ごしていただくためのメイドの手仕事です。

これを私は愛だと考えます。愛と呼ばずしてなんと呼べばいいのでしょうか。


でもきっとメイドの気持ちは伝わり辛いものですから、旅人様は我々の行いを「癒し」や「萌え」と呼ぶようになったのでしょうね。

萌えってもう使われませんか?今は尊いと呼ばれるのでしょうか。

なんだかもっと距離が離れてしまったような気がします。旅人様が思っている以上にメイドは寄り添っておりますよ。


メイドの存在は二の次で、スコーンとハーブティーと本が好きと通ってくださる旅人様も、この場所には少し変わった本があり、スコーンが狼の口を開け、気分に合わせたハーブティーを楽しめると、見えない導線でメイドのことを信頼し、来館して下さります。

前述したものは少し都合のよい捉え方かもしれませんが、シャッツキステは旅人様の信頼とメイドの愛で成り立っているのです。

どちらか欠けたらそれはシャッツキステでなくなり、我々のお給仕は時に意味を無くしてしまいます。



愛と信頼が交わる暖かさが14年間シャッツキステが物語を続けてこれた理由だと、一人のメイドはキッチンの隅で今日も考えるのでした。






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さて、長々と綴ってしまいました私のメイド論。


なんだかまだ話し足りないなあなんて思いつつも、続きはまた明日にしましょうか。



仕掛け絵本を柔らかい手で抱え目を輝かせる天使のような小さな旅人さま、

学生服を身にまとい緊張しながら一生懸命お話ししてくださった旅人さま、

遠方からはるばる当館へ、まるで昨日の続きのようにお話が弾む旅人さま、

スーツ姿の少し疲れた様子で、まるで回復薬のようにお菓子と紅茶を召し上がる旅人さま、
お名前も年齢も職業も全て置いてコミニュティ楽しむ旅人さま。 


旅人様がいて、その横にメイドが立ち、シャッツキステは確かに存在しました。


暖かくして健康でいて下さいね。寒く長い冬が訪れますが、春には暖かく優しい芽が咲きますように。




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そろそろ閉館のお時刻のようです。


館内からあと何回夕日を見ることができるのでしょうか。


今年の7月、屋根裏を解放したあの日、準備のために一人ひたすら掃除を続け、途方にくれた私を励ますように夕日が差し込んだ最上階。


この場所で最後の夕日を見る日、私はきっと静かに泣きます。



14年前と11年前のあの日、エリスさんも同じ景色をみていたような気が、して。






春から冬へ

約4年間 有難うございました。


それでは皆様 ごきげんよう。


シズク