壮大かつ涙がちょちょぎれんばかりのエモい日誌で幕を下ろそうとか意気込んでたのですが、
もう11月も9日目の夜ですって。
我々メイド軍団による最後の日誌シリーズも9番目ともなると箸休めみたいなもんですよ。
しかも私が書きたいこと、
そして恐らくは皆様が読みたいことって他のメイドが書いてると思うんですよね。
なので、突き詰めるとライゼから皆様へお伝えしたいことはありません。
ご清聴ありがとうございました!
みなさまそれではお元気でっヽ(^ω^)ノさよならー☆
【本日のメイドの日誌・完】
というわけにもいかない、なるほど。
オッケーでございます。
以前、残り少ない日誌のページを私に割いてくれたメイドがいました。
本当は私、その1ページがものすごく嬉しかったんです。
息もできなくなるような嬉しい時の感情。
こそばゆさも伴う素直な感謝の念。
それを私も再現できないか。
秋の夜長を用いまして、ここで試みたいという所存です。
いつかどこかでライゼの日誌を読む旅人に向けて。
そしてなにより。
今晩には旅立つ私のために、この日誌を書き上げます。
なりたい自分になるために。
清涼な夏風が吹く日、私は私設図書館シャッツキステの扉をひらきました。
私の知る限りこの図書館は誰も拒みません。
同時に何も求めません。
整然と本があるだけ。
そこに人が集うだけ。
紅茶と焼き菓子と談笑する人と人との全てが寛容なまま、等しく時がさらさらと流れる。
互いに顔を見合わせて笑う横顔を見て私も、
『こうなりたい』と願いました。
ここでなら、毎日を明るく楽しく笑って元気に過ごせると確信しました。
実は第六感にかなりの自信がございます。
第六感からもたらされた確信が現実になると共に、毎日を一期一会の連続で駆け抜けました。
めまぐるしくあくせくと過ごす日々が、心の底から楽しかったです!
私の話で笑い、私の挙動に驚く皆様を見ていると嬉しくなりました。
皆様の笑い声に包まれて面白くおかしく過ごす日々。
人の笑顔を見るのが私はなによりも大好きでした。
笑っていればどんな時も、なんとかなるはずだから。
自分でもどうかと思うのですが館内では、いつも心にサンパチマイクを携えておりました。
あんなに皆様が私を見て楽しそうにしてくれていたから、
きっとこの私がみんなのことを元気にしているんだと思ってました。
勘違いも甚だしくて本当にお恥ずかしいです。
私が周りを元気にしてるんじゃなくて、皆様の笑顔のおかげで私が元気になってました。
皆様がいてくださったからなんです。
あなたが笑顔で私に応えてくれたからです。
気付くまであまりにも時間をかけすぎましたが、最後にもう一度お礼を申し上げたいです。
ありがとうございます。ありがとうございました。
いつもいただいてばかりで、とうとうなんのお返しもできませんでした。
シャッツキステを通じて皆様に出会えてよかったです。
私がこの国のこの街で私設図書館のメイドになるなんて、神様も思いつかなかったでしょう。
こんな私に優しくしてくださってありがとうございました。
皆様のおかげで私は、なりたい自分になれました。
見たいものも全部見ました。
私の望みは全て叶いました。
なにもかもやり切りました。
もう私には何も残っていません。
あとは燃え尽きてハイになって空に昇るだけ……。
けれどもいまや不老不死となってしまった私は灰になることは叶わず、
これからも長く長すぎる過酷な人生に、明日からも一所懸命立ち向かい続けなければならないようです。
不老不死であることにそんなに不安はありません。
なぜなら不老不死の私には、
同じく不老不死な皆様との思い出があるからです。
私は果報者です。
メイドを辞めたらなにをしようか。
実は、メイドになった春の日にはもう決めてました。
徹頭徹尾、なりたい自分になるために。
私は私のためだけにお給仕をしました。
そして私は、人間とはそうでなければならないと常々感じております。
感情が発露する際、利他と利己のどちらであるのかが判別できなくなる程に、人の感情と向き合い続ける。
アンビバレンスな人達と、支え合い助け合い縁をつなぎ合い生きていく。
恐らくは、人生ってそういうものなのだと思います。
ライゼという名は、異国の言葉で『旅』を意味します。
移ろうものが世にたくさんあっても、消え行くものがあるとしても、旅を続ける人がいる限り思いはどこにも消えません。
明日からは、私も皆様と同じ旅人に戻ります。
素敵な心の旅をするべく、冬の枯れ野を駆け巡ります。
私たち、いつかまたどこかですれ違いますよ。
これは第六感や確信というより、そう思いながら互いの背を見送りたいという私からの要望です。
私設図書館シャッツキステで出会った方々のように、私も次の扉をひらいて自由気ままな旅を楽しみます。
今度の旅は、ライゼになる前の自分を探しに行くつもりです。
神様ですら見つけられないどこか遠くの旅の最中に、今度はお互い自由気ままな旅人として。
その時もまた、いつものような素敵なあなたでいてくださいね。
本当に楽しかったなぁ。
私たち、ずっと最高でしたよね?
私たちはずっと最高だった、と私のためにおっしゃってください。
『世界一最高だった』って最後に信じさせてください。
放課後の教室の片隅。
暮れなずむ茜色の窓際で他愛もないおしゃべりをするような。
時計の針など気にもせず、夕凪に似たひとときがずっとずっと……。
まだまだたくさんおしゃべりしていたかったけど、
話し足りないくらいがきっと、ちょうどいいんですよね。
さよならを好きだって言えるうちに。
日の落ちる一瞬の閃光さながら、輝けるうちに。
本当にずっと、楽しかったなぁ。
明日明後日の休館日ののち、
私設図書館シャッツキステは、
12時より開館しております。
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